第14回骨盤外科機能温存研究会抄録

第14回 骨盤外科機能温存研究会抄録

期日:平成16年7月10日・11日
開催地:東京都
会長:木下 勝之(順天堂大学産科婦人科)

【特別講演】『直腸癌に対する手術の基本』
東京医科歯科大学大学院腫瘍外科
杉原健一

直腸癌手術の基本は、直腸と直腸間膜を上直腸動静脈と下腸間膜動静脈の血管系とともに筋膜に包まれた状態で摘出することである。この操作は、直腸・S状結腸の生理的癒着を剥離することであり、下腸間膜動静脈とS状結腸動静脈の結紮以外、結紮を要しない。出血すれば、剥離層が正しくないことを示している。直腸間膜内には微小転移巣の頻度が高く、全周にわたる完全切除が必要であるが、肛門側切離は腫瘍下縁から2cmでよい。

【教育講演】『未固定凍結人体標本を用いた手術演習の試みと研究展開』
札幌医科大学医学部解剖
村上 弦

死後24時間程度の献体から得た未固定凍結標本は、解剖学研究と手術演習に不可欠の材料であるが、日本では若干の大学が整形外科バイオメカニクス研究のために採取しているに過ぎない。札幌医大だけが学外者にも解剖を認めている。基靭帯や泌尿器科的NVBなど最近の研究、他科および骨盤領域の手術演習の実際を供覧した。1施設でも増えることを願い、遺族への電話対応、感染症対策、他科との協力体制など、関係実務を説明した。

【シンポジウム1】『泌尿器科領域における機能再建術』
Ⅰ: 射精を支配する神経の分布に関する一考察
群馬大学医学部附属病院泌尿器科
黒川公平, 武井智幸, 田中俊之, 鈴木和浩

われわれは、骨盤悪性腫瘍手術時の神経温存の臨床試験を施行中であり、その中で、人においてはL2~腰内臓神経~上下腹神経叢~下腹神経刺激が例外なく陰茎海綿体内圧上昇を来すことを見いだした。同様な見解は、犬モデルにおける、electroerection時の下腹神経刺激による報告のみである。われわれの神経刺激による神経走行の推察は、下腹神経は神経血管束に沿って陰茎に到達しているということでああり、機能的所見を交え報告した。

Ⅱ: 前立腺全摘術における海綿体神経切除例に対する腓腹神経移植術
東北大学医学部 泌尿器科、病理部、形成外科
斎藤誠一、並木俊一、沼畑健司、海法康裕、中川晴夫、伊藤明宏、石戸谷滋人、佐藤信、遠藤希之、山田敦、荒井陽一

前立腺全摘術後5日に尿道カテーテルを抜去し、直後の尿失禁量を測定した。抜去直後約60%、5日後80%以上の症例で尿失禁量は0グラムであった。
海綿体神経の両側温存例は術後1年での性機能の回復率が約75%、片側温存例は約30%であった。片側温存例では、腓腹神経移植例は、非移植例に比較してわずかに性機能の回復が優っていた。神経再生が標的器官に到達するまで2年近く要するため、さらなる経過観察が必要である。

Ⅲ:自己導尿型尿路変更術・代用膀胱造設術の長期成績についての考察
順天堂大学浦安病院 泌尿器科
川地義雄

1988年9月からの1年間のIndiana pouch 変法12例の長期成績を集計した。5例は留置カテーテルとなっており、また、5例では pouch 内結石形成があった。加齢や生活環境の変化への対応、長期通院経過観察の困難さが示された。
最近、本邦では自己導尿型尿路変更術に代わって、代用膀胱造設術が増加しているが、ileal conduit や ureterostomy の評価は低下していない。最近の現況を報告した。

【シンポジウム2】『骨盤解剖に基づく尿失禁・性器脱の修復手術』
Ⅰ:私たちが行っている性器脱の管理と手術療法
札幌医科大学産婦人科学講座
斉藤 豪、田中綾一、鈴木孝弘、岩崎雅宏、永井美帆、伊東英樹

本研究では、当科において治療して性器脱82例について尿道膀胱造影による術式決定と術式の有用性について長期予後を含めて検討した。尿道膀胱造影では75.4%に後部尿道膀胱角の、98.4%に腹圧膀胱下垂長の改善が認められた。長期予後では尿失禁の改善は66.7%に認められた。しかし、術後に尿失禁が改善しなかった症例や術後長期間してからの再発も見られさらに骨盤底筋群の訓練による強化の指導を行うことによって治療効果を改善し得ると考える。

Ⅱ:尿失禁と排尿障害の修復手術
東京大学泌尿器科
高橋 悟

腹圧性尿失禁手術法には、コラーゲン注入、needle bladder neck suspension、retropubic colpo suspension、尿道スリングがある。前者2つは長期成績が充分でなく、後者2つは長期成績は良好であるが、侵襲性から充分普及していない。新しい尿道スリング法のTVT手術は、手技が簡便、低侵襲、術後排尿障害の発生が少ない、などの特徴を有する。当教室では54例に行ない退院時完治率93%、平均観察期間24.9か月の完治率88%と良好な治療成績を得ている。

Ⅲ:骨盤解剖に基づく尿失禁と性器脱の修復手術
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(産科学婦人科学)
古山将康(こやままさやす)

性器脱の合併症としての尿失禁は患者のQOLを損なう。本研究では性器脱手術時の尿失禁外科的治療の併用を検討した。ガーゼパッキングで性器脱を一時的に矯正し尿失禁をきたす17症例に根治形成術にTVT手術を全麻下で併用した。術後一過性排尿困難を5例に認めたが1ヶ月を越えては1例のみであった。TVT手術は全身麻酔下でのテープ位置の固定が可能であり,性器脱との同時手術を行い得る術式と考えられた。

【一般講演1】『骨盤低機能再建』
1:子宮頸部円錐術後の頸管狭窄症に対する検討
滋賀医科大学産婦人科学教室
真田佐知子、秋山稔、斉藤真理、白神明枝、吉川知江、天野創、辻俊一郎、
木村文則、喜多伸幸、竹林浩一、廣瀬雅哉、高橋健太郎、野田洋一

過去10年間に子宮頸部円錐切除を行った84例の術後合併症について検討した。頸管狭窄症が10例あり、特に月経周期を有する75症例ではStrumdorf縫合を行った例(5例中4例)に多く見られた。この縫合を避ける工夫を行ってからは発症頻度が低下しており、局所出血を止血できればStrumdorf縫合を行う必要はなく、止血目的に行う場合には、8方向にこれをしっかり行い、頸管狭窄を予防すべきであると考えられた。

2:子宮脱は何が脱出するのか
北陸中央病院産婦人科、矢吹朗彦、石川県立中央病院産婦人科 佐々木博正

子宮腟脱は、骨盤底と子宮腟の傍結合組織が弛緩、脱出する結果との意見が多い。我々は、骨盤結合組織を筋性筋膜であるsupporting system(膀胱子宮靭帯前層、仙骨子宮靭帯など)と、間膜様構造体であるsuspensory system(基靭帯、膀胱子宮靭帯後層など)に分類した。子宮および腟脱の原因の一部は、この二つのシステムの先天的或は後天的な弛緩や解離によるとの仮説を、解剖学的検討より提案した。

3:Rectocele を伴った排便障害の治療経験
東邦大学医学部外科学講座(大森)一般・消化器外科
後藤友彦 塩川洋之 龍雅峰 皆川輝彦 船橋公彦 高塚純 寺本龍生

排便困難症例のうち、直腸瘤(Rectocele)あるいは直腸粘膜脱、直腸脱に直腸瘤を伴った症例にanterior levatoplasty ,postanal repair ,Procedure for Prolapse and Hemorrhoids (PPH)を組み合わせた術式を13症例に行い、11例で有効であった。再発例は子宮脱、膀胱脱を伴った2症例で、それらの症例では骨盤底全体の修復を要した。

4:外科医はRectoceleに対する治療の花形になれるのか?−大きさと手術適応(第2報)
1)洛和会音羽病院・大腸肛門科、
2)名戸ヶ谷病院・消化器病センター、
3)福西会川浪病院・大腸肛門病センター
宮崎道彦1)、黒水丈次2)、豊原敏光3)

【はじめに】prospectiveにrectoceleの大きさ「30mm以上」の症例17例(全例女性、年齢53ア11歳、観察期間22ア12か月)に対し手術を行った結果をアンケート調査を加えて報告する。【結語】「大きさ」による手術適応は排便の困難性は改善するが全ての便秘状態の改善にはつながっていない。また、その他の不定愁訴が残る傾向にあり術前の十分なインフォームドコンセントが重要であると思われた。

【一般講演2】『直腸癌の手術と排便機能』
5:下部再発・進行直腸癌に対する前立腺切除(部切2例・全摘3例)合併直腸切断術の検討
札幌医科大学医学部第一外科1) 、同泌尿器科2) 新札幌恵愛会病院3)
秦 史壮1)、古畑智久1)、鶴間哲弘1)、西森英史1)、永山 稔1)、沖田憲司1)、平田公一1)、塚本泰司2)、八十島孝博3)

<目的>Rbで前方浸潤が疑われるが膀胱温存が可能な場合において、前立腺切除合併直腸切断術の功罪を報告する。
<対象>局所再発2例、原発3例。
<結語>いずれも前立腺近傍からの再発はみなかった。1例は膀胱瘻、2例は自己導尿、2例に自排尿を認め尿路stomaを避けられた意義はある。しかし、再発例では瘢痕を切離し膀胱温存するより、合併症を避けること、切離断端の確実性から骨盤内臓全摘が考慮されるべきであろう。

6:直腸癌前立腺浸潤における直腸前立腺合併切除
国立がんセンター東病院 骨盤外科
田中俊之、齋藤典男、杉藤正典、伊藤雅昭、小林昭広、鈴木孝憲
2001年2月から2004年4月までに直腸癌の前立腺浸潤に対して7例の直腸前立腺合併切除術を施行した.平均年齢58.6歳.4例は膀胱尿道を吻合,3例は膀胱瘻を造設した.6例中3例に病理学的に前立腺浸潤を認めた.現時点において膀胱尿道吻合した症例は,全例自排尿可能である.排尿状態は腹圧排尿が主体となっていた。アンケート上,排尿満足度は大体満足から気が重いまで時期的な変化を含め多様であった。

7:下部直腸・肛門管癌に対する直腸切断術の回避 =内肛門括約筋切除術の可能性=
大腸肛門病センター高野病院外科
山田一隆、緒方俊二、久野三朗、福永光子、谷村 修、佐伯泰愼、柴田直哉、淵本倫久、野里栄治、辻 順行、高野正博

直腸切断術を行った下部直腸・肛門管癌100例において、72例では肛門挙筋・外肛門括約筋への浸潤がなく、全例で下直腸リンパ節転移を認めなかった。両筋浸潤に関する多変量解析では部位、腫瘍径、分化度が有意の因子であり、腫瘍下縁が歯状線より15mm以上あるいは腫瘍径30mm以下では浸潤を認めなかった。下部直腸・肛門管癌でも直腸切断術が必要ない症例も多く、内肛門括約筋切除術の適応拡大が可能と思われた。

8:直腸癌術後の排便機能に関するアンケート調査
〜低位前方切除後側端吻合における術後排便機能〜
東京医科歯科大学大学院 腫瘍外科学
石黒めぐみ、榎本雅之、谷口和樹、田平秀昭、倉持純一、牧野博司、角崎秀文、植竹宏之、安野正道、杉原健一

術後排便機能・QOLについて、過去7年間の当科直腸癌術後無再発生存例146例に対しアンケート調査を行い、吻合法(側端と端々吻合)及び術式(LARとAPR)による差を比較検討した。LAR後側端吻合では、外出に対する制限及び術後早期の排便機能・QOLスコアの合計において、端々吻合に比べ優れている傾向にあった。またAPR症例では、術後の社会生活に対する制限や満足度においてLARと有意差を認めなかった。

9:当科におけるRb下部直腸癌に対する括約筋間切除(ISR)・経肛門的結腸肛門管吻合の適応と実際
静岡県立静岡がんセンター大腸外科
森田浩文、山口茂樹、石井正之、大田貢由、本多桂、森本幸治

当科ではRb下部、肛門管近くにおよぶ直腸癌に対しても括約筋間切除(Intersphincteric Resection: ISR)および経肛門的結腸肛門管吻合を導入することにより肛門温存術を行っている。なお全例に回腸人工肛門を造設、術後3ヶ月以降に閉鎖術を施行している。2002年9月から2004年4月までに本術式を11例に施行した。 現在まで1例に肝肺再発を認めたが、局所再発は認めていない。

10:下部直腸手術における視野展開の工夫
藤田保健衛生大学
枡森宏次、前田耕太郎、花井恒一、佐藤美信、小出欣和、松本昌久
青山浩幸、松岡宏、勝野秀稔、石川太郎、船橋益夫、鎌野俊彰

手術操作が困難な下部直腸手術において、より良好な視野を得て、確実な機能温存手術を行うための手術体位は重要である。下部直腸の手術では、恥骨が視野の妨げになり、補助手術具を用いても圧排出来ない。そのため、恥骨をより尾側へ移動させるために、体位を水平大腿開脚位とした。この体位にすることで術者から見て真下に直腸を見ることができる。下部直腸の手術の際には水平大腿開脚位が視野展開に有効な体位であると考えられた。

11:大腸癌根治手術(小切開法、Wound Traction法)
_腹腔鏡補助下大腸切除術(LAC)を超えた低浸襲手術術式
癌研究会附属病院消化器外科
畦倉 薫、上野雅資、大矢雅敏、山口俊晴

3方向から創外牽引器で小開腹創(7cm)を適宜斜め上方に牽引し、より広いworking spaceでLCS,ligasure等を用いてC〜Rb,Pまでの大腸癌に対する根治手術を行う。全周性、放化療後、高度癒着症例でも手術可能であった。LACに比べて、 a)気腹、強い頭低位、portsが不要、b) 広い手術適応,c)より低侵襲。 10例に施行(Rs~P)。手術時間3〜4時間、出血量30〜300g程度である。

【一般講演3】『尿禁制と排尿機能』
12:新しい解剖学的知見に基づいたcavernous nerveおよび
intrapelvic continence nerveの電気生理学的同定
川崎医科大学泌尿器科
武中 篤、原 綾英、兵頭洋二、石村武志、酒井 豊、藤岡 一、藤井智浩、常 義政、藤澤正人、村上 弦(札幌医科大学第2解剖学)

我々は、NVBとcavernous Nの関係について解剖学的検討を行ってきた。今回、術前に同意が得られた11例(恥骨後式前立腺全摘10例、膀胱全摘1例)において、膀胱頚部レベルのNVBとその1cm背外側を電気刺激し、陰茎海綿体圧と尿道括約筋圧をモニターするという、電気生理学的検討を試みた。NVB刺激ではそれぞれ10.7ア7.4、16.4ア10.5cmH2O、NVB背外側刺激ではそれぞれ14.4ア6.8、9.1ア7.2cmH2Oの圧上昇を認めた。解剖学的検討と同様に、電気生理学的にも術中NVBの走行はcavernous Nと必ずしも一致しない、一部のcontinence Nはcavernous Nと伴走していることが示唆された。

13:前立腺全摘除術後の尿禁制 −退院時での尿禁制の獲得は可能か−
神鋼病院泌尿器科1)、川崎医科大学泌尿器科2)
寺川智章1)、田口 功1)、今西 治1)、山中 望1)、武中 篤2)

前立腺全摘除術後の尿禁制に関して手術手技との関係を臨床的に検討した。当科にて手術を施行した110例を対象とし、手術手技により以下の2群に分けた。A群:側方先行施行群、B群:側方先行かつ前立腺尖部の形態に沿った尿道切断施行群。B群ではカテーテル抜去後7日目で尿失禁量率(尿失禁量/全尿量)は5.8%ときわめて良好であり、A群と有意差を認めた。完全尿禁制率も53.3%と退院時での尿禁制獲得は可能と考えられた。

14:ネオブラダー尿道再発に対する虫垂利用自己導尿型尿路再変向術の経験
宇治徳洲会病院泌尿器科1)、京都南病院泌尿器科2)、滋賀医科大学泌尿器科3)
牛田 博1)、益田良賢1)、前田康秀2)、岡田裕作3)

68歳男性、2002年2月に浸潤性膀胱癌に対し根治的膀胱前立腺全摘除術、回腸利用代用膀胱造設術を施行。2004年2月尿閉傾向を認め精査にて膀胱尿道吻合部再発を同定。2004年3月TUR-Bt施行し浸潤傾向があり多発していることから、2004年4月尿道全摘除術、膀胱頚部部分切除、虫垂利用自己導尿型尿路再変更術を施行。今回われわれが用いた虫垂を利用した自己導尿型への再変向術もひとつの方法と考える。

15:未固定遺体を用いた拡大自律神経温存広汎子宮全摘術
癌研究会附属病院婦人科1)、山王メディカルプラザ女性腫瘍内分泌センター2)、札幌医科大学第二解剖学3)
加藤友康1)、小林弥生子2)、村上弦3)、荷見勝彦1)
我々は基靱帯神経部とされてきた部位のうち中直腸動脈とS3の骨盤内臓神経のみを温存する拡大自律神経温存術式を提案した。今回は未固定遺体を用いて骨盤神経叢とその膀胱枝の温存程度を検証した。基靱帯臓側断端直下の骨盤神経叢を切断し、可及的に膣に向かって切り上げることで、骨盤神経叢とその膀胱枝は部分温存されることが示された。なお切断した膀胱子宮靱帯後層内には尿管経由の膀胱枝と考えられる神経線維束を認めた。

16:腟を長く切除すれば膀胱機能の低下は増強されるか
北陸中央病院産婦人科
矢吹朗彦

腟をより長く切除すれば膀胱機能は障害されると知られるが、解剖学、組織学的な実証はない。演者は岡林の膀胱子宮靭帯後層は基靭帯と膀胱を繋ぐ血管神経束であると考え、解剖学的および臨床的に検討した。その結果骨盤神経叢の膀胱枝は膀胱子宮靭帯後層内を走行した。しかし腟や尿道には分布しなかった。手術的にも岡林の腟側腔を発掘し膀胱子宮靭帯後層を選択的に切除することにより膀胱機能は温存された。仮説には否定的である。

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