第13回骨盤外科機能温存研究会抄録

第13回 骨盤外科機能温存研究会抄録

期 日:平成15年7月19日・20日
開催地:東京都
会 長:佐藤 達夫(東京医科歯科大学医学部解剖学)
演 題:
1.    後方直腸局所切除術の検討
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科消化機能再建学分野
新井健広、植竹宏之、榎本雅之、岡部 聡、杉原健一

直腸腫瘍に対する局所切除術は、その深達度、大きさ、局在、形態などにより、内視鏡的切除、経肛門的切除、後方直腸局所切除が行われている。当科では下部直腸早期癌に対してサンプリングとして後方直腸局所切除を施行しているが、内視鏡的切除や経肛門的切除と違い直腸間膜を含めた全層切除を行うことによって切除標本を挫滅することなく病理組織学的検索ができる点が有用であると考えられた。

2.    分層植皮による歯状線作成肛門管再形成により自然肛門を温存した肛門扁平上皮癌の1例
洛和会音羽病院大腸肛門科*、形成外科**
加川隆三郎*、宮崎道彦*、安井浩司**、松本幸子**

肛門全周性の12x10cmの扁平上皮癌(carcinoma in situ)に対し、腫瘍の存在部位より3cm遠位より、括約筋を温存して肛門周囲皮膚、肛門上皮、歯状線上1cmまでの直腸粘膜を一塊として切除した。歯状線と肛門管の再建は分層植皮で行い、植皮片と直腸粘膜・内肛門括約筋縫合部は波形にして狭窄を防止した。肛門周囲皮膚欠損部は伸展皮弁で再建した。病理組織学的に切離断端、剥離断端は陰性であり、自然肛門温存が可能であった。

3.    会陰腹式直腸切断術の会陰操作からみたTMEの剥離の工夫
東邦大学附属大森病院 消化器外科
三木敏嗣、船橋公彦、塩川洋之、龍 雅峰、徳山隆之、後藤友彦、
高塚 純、寺本 龍生

会陰腹式直腸切断術の会陰部操作は、肛門挙筋を露出後、後壁より尾骨直腸靱帯を切離、直腸固有筋膜を露出させ仙骨前面を鈍的に剥離しTMEの剥離層に連続させる。側方より前立腺を確認しながら切離を進め、前立腺後面に沿って腹膜翻転部まで剥離をすすめる。会陰腹式直腸切断術の会陰部操作は、的確な剥離面の同定が可能で、開腹時間の短縮による手術侵襲の軽減と狭骨盤患者においても視野が確保できる有用な方法と考えられた。

4.    後方浸潤直腸癌に対する仙骨合併切除の意義
大腸肛門病センター高野病院外科1)、鹿児島大学第1外科2)
山田一隆1)、高野正博、緒方俊二、佐藤公治、佐村博範、柴田直哉、
淵本倫久、柴北宗顕、福永光子、谷村 修、久野三朗、石沢 隆2)、愛甲 孝

後方浸潤を伴う直腸癌に対して、骨盤内臓全摘+仙骨切除(TPES;25例)と直腸切断 +仙骨切除(APRS;11例)を行った。(1) 各術式における手術時間、出血量、Morbidityは、APRS症例で296分、2443ml、45%、TPES症例で442分、3257ml、68%であ った。 (2) 組織学的に仙骨浸潤が8例、仙骨前結合識浸潤が9例に認められ、その5 年生存率は仙骨浸潤例 0%、仙骨前結合識浸潤例14.8%、非浸潤例 49.8%であり、各 群に有意差が認められた。

5.    骨盤内蔵下垂症に対し開腹直腸挙上固定術後バイオフィードバック訓練を施行した10症例の検討
大腸肛門病センター高野病院外科
佐村博範、高野正博、山田一隆、佐藤公治、緒方俊二、柴田直哉、淵本倫久、

排便障害を有する骨盤内臓下垂症の10症例(平均年齢71.0歳)に対して開腹直腸挙上固定術後、バイオフィードバック療法(以下BF)による排出・随意収縮訓練を行った。術前肛門内圧(cmH2O/DIV)の平均最大静止圧は53.1、最大随意圧は184.5であり、手術BF後は61.4、275.5と軽度改善していた。臨床症状では便もれが6例中4例、残便感が5例中4例、排便困難が5例中2例で改善していた。

6.    CT-defecographyによって非侵襲的に診断されたrectoceleに合併したenteroceleの1例
藤田保健衛生大学医学部外科、同 放射線科*
岡本規博、前田耕太郎、加藤良一*、丸田守人

Rectoceleの診断は臨床所見やdefecographyにより容易に診断可能であるがenteroceleの診断には侵襲的なperitoneographyを伴ったdefecographyが必要とされる。 演者らは排便動作時に高速マルチスライスCT撮影を施行し、多断面再構成像にて骨盤内を観察した。 本検査法をCT-defecographyと名付け、非侵襲的にrectocele に合併したenteroceleが明らかとなった症例を経験した。 術前にmultislice CTによるCT-defecographyを施行しenteroceleの合併を3症例に認めた。 治療はanterior levator plasty with  posterior colporraphyを施行した。 経過は良好で、排便状態も良好に改善した。

7.    Rectoceleの大きさと手術適応
福岡高野病院外科、現、洛和会音羽病院大腸肛門科2)、
現、杉並大腸肛門クリニック3)
宮崎道彦1)2)、黒水丈次1)3)、豊原敏光1)、衣笠哲史1)、別府理智子1)

【対象と方法】経膣的に手術を施行した35例を対象とし術前のdefecography でrectoceleの大きさが30mm以上であった群(以下、L群)18例と、30mm未満であった群(以下、S群)17例に分けて検討した。【結果】術前後で「残便感」、「下剤の使用量」、「平均排便時間」の症状はL群で有意に改善がみられた。よって大きさが30mm以上の症例は手術により症状の改善が見られる。

8.    広汎性子宮全摘出術における新たな骨盤神経温存法の検討
_特に支持組織との関係と膀胱機能検査結果について_
札幌医科大学医学部産婦人科学教室
伊東英樹、斉藤 豪、工藤隆一

広汎性子宮全摘出術の広汎度を損なわない神経枝温存術式を8年前から開発し、子宮癌29例に施行、ほぼ良好な膀胱機能結果を認めて来た。近年、更なる改良点として尿管と子宮動脈との交差部より2cm程頭側で、尿管に連続して存在する膜状の尿管下部組織において、尿管下方1cm程、離れた部位に孔をあけ、基靭帯をその裂孔から引き抜く術式に変更、良好な成績を認めている。術式の大要、更に術後膀胱機能成績等に関し報告する。

9.    広汎子宮全摘術時の自律神経刺激による排尿機能温存の評価
東北大学大学院医学系研究科婦人科学1)
東北大学大学院医学系研究科泌尿器科学2)
群馬大学医学部泌尿器科学3)
片平敦子1)、新倉 仁1)、中川晴夫2)、海法康裕2)、黒川公平3)、
荒井陽一2)、八重樫伸生1)

我々は広汎子宮全摘術の際に、自律神経電気刺激を子宮摘出前後に行い、排尿機能温存の評価をしている。結果は6例中一側以上温存と判定できたのは4例であった。その4例では、術後全例残尿なく自排尿可能であり、排尿中の排尿筋の収縮を尿流動態検査にて観察可能であった。温存不可能であった2例では排尿筋の収縮は全くみられず、腹圧排尿をしていた。この方法は今後の神経温存術式の手技向上と術式の標準化において有用と考えられる。

10.    神経温存広汎子宮全摘術における、神経ナビゲーションシステム開始前後での温存成功率
東北大学大学泌尿器科1)、東北大学研究科婦人科2)
中川晴夫1)、海法康裕1)、新倉 仁2)、片平敦子2)、八重樫伸生2)、
荒井陽一1)
神経温存広汎子宮全摘術において、術中副交感神経電気刺激を行い膀胱内圧の変化を測定し神経温存手術を行った。神経温存の評価は、術後の尿流動態検査における排尿筋収縮により判定した。システム導入前後の症例で神経温存手術の成功率を比較した。導入前は神経温存41%、導入後71%であった。本システムにより、神経温存手術の成功率が上昇する可能性が示唆された。

11.    広汎子宮全摘術における膀胱機能温存法と術後の尿流動態学的検討
北海道大学産婦人科
藤堂幸治、寺島瑞恵、見延進一郎、藤本俊郎、武田真人、蝦名康彦、
渡利英道、山本 律、櫻木範明

初回治療として自律神経温存広汎子宮全摘を行った子宮頚癌12例を対象とし、術前、術後1、3、6、12ヶ月の各時点において尿流動態学的検討を行った。最大尿意時膀胱コンプライアンスは手術の影響を受けず、最大尿流量率、最大尿流量時排尿筋圧は手術の影響で低下した。最大尿流量時腹腔内圧、残尿量は増加するものの回復した。尿意の減少した症例は2例のみで本術式が膀胱機能温存に有用な術式であることが示された。

12.    陰茎海綿体神経についての病理組織学的検討
近畿大学医学部泌尿器科、同病理*
上島成也、山本智将、松本成史、松田久雄、栗田 孝、木村雅友*

陰茎海綿体神経の本態を究明する目的に、前立腺全摘除術後の病理標本を用いて検討した。観察可能な神経は29神経単位であり、神経の位置は前立腺の5時・7時に相当する部位が23神経単位(79.3%)、3時・9時に相当する部位が6神経単位(20.7%)であった。本数はすべて複数本存在した。神経温存前立腺全摘除術を施行する際の前立腺筋膜剥離は、できる限り前立腺の前面より、丁寧に行う必要性があると考えられた。

13.    endopelvic fasciaの解剖
川崎医科大学泌尿器科1)、三田市民病院泌尿器科2)、神鋼病院泌尿器科3)、神戸大学泌尿器科4)、札幌医科大学第2解剖5)
武中 篤、藤澤正人1)、曽我英雄2)、田口 功、今西 治、山中 望3)、
原  勲4)、村上 弦5)

cadaverを用いendopelvic fascia(EPF)の解剖および術中の扱い方について検討した。fresh8体、 formalin-fixed15体を用いた。EPFは肛門挙筋筋膜と膀胱下腹筋膜の癒合した構造物であった。肛門挙筋筋膜は骨盤と会陰を分ける重要なlandmarkで、これを損傷せずに前立腺から剥離するanatomical approachは、術後尿失禁やEDの予防に有用と考えられた。

14.    根治的前立腺全摘除時の神経移植による勃起機能温存:神経血管束の取り扱い
東京医科歯科大学大学院 尿路生殖機能学
増田 均、木原和徳、小林 剛、川上 理、藤井靖久、兵地信彦、矢野雅隆、
古賀文隆、大塚幸宏、影山幸雄

根治的前立腺全摘除時に癌の根治性と勃起機能温存の両立をめざした神経移植術が注目を集めている。当科では、陰茎海綿体神経が神経血管束内の最外側を走行している解剖学的知見に基づき、T1c症例の一部で、神経血管束の最外側の組織を残し、充分な周囲組織を付けて前立腺を摘出し、内側の欠損部に採取した腓腹神経を移植した。現在、両側移植例の50%弱、片側温存、片側移植例の60%強で部分勃起以上の反応を認めている。

15.    骨盤神経叢の形態学的ならびに機能的位置づけ
東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科形態・生体情報解析学
同大学院医歯学総合研究科尿路生殖機能学
佐藤健次、長雄一郎、木原和徳

骨盤神経叢は交感神経の下腹神経と副交感神経の骨盤内臓神経により、腹腔動脈周囲の腹腔神経叢のごとく、神経線維相互調節のため形成される神経叢である。自律神経と血管配置との関係から、骨盤腔内の内臓・骨盤壁間神経叢として位置し、ここから臓器の血管制御を可能にするため内腸骨血管の分枝が神経叢を貫通もしくはその近傍を通過し、さらに神経叢の臓側枝の上・下群の間で血管が臓器に侵入する配置がなされたと考えられる。

16.    経仙骨的アプローチでみる直腸固有筋膜と側方靱帯の構造
癌研究会附属病院 消化器外科、同院長*
畦倉 薫、上野雅資、大矢雅敏、山口俊晴、武藤徹一郎*

下部直腸sm癌に対する新しい根治的縮小手術(直腸局所切除+sentinel nodesを含む領域直腸間膜を広範囲に切除)を開発し、施行している。直腸間膜の剥離の際1)直腸固有筋膜は単なる一枚の膜構造とはとらえ難い、2)直腸間膜内でも側方靱帯がしっかり認められる(すなわち欧米のメ側方靱帯は骨盤神経叢と直腸固有筋膜の単なる癒着モというのは正しくない)。以上の理解で手術を施行している。

17.    基靱帯と側方靱帯の位置関係
癌研究会附属病院婦人科、札幌医大第2解剖、
加藤友康、小林弥生子、梅澤 聡、清水敬生、荷見勝彦、村上 弦

目的:基靱帯神経部(深子宮静脈より背側)の骨盤壁側では内部に中直腸動脈を認める。TMEの際に認識される直腸側方靱帯との位置関係について新鮮凍結2遺体を対象に検討した。
方法:骨盤壁側で骨盤内臓神経を確認、基靱帯神経部に絹糸をかけた。次に直腸固有筋膜を切開、側方靱帯に別の絹糸をかけた。
結果:両絹糸間には骨盤神経叢を介在して連絡が認められた。
結論:基靱帯神経部と側方靱帯は骨盤壁側においてほぼ同一である。

18.    メ側方靭帯モの見分け方と神経温存
千葉大学大学院医学研究院 臓器制御外科学
清水公雄、幸田圭史、小田健司、清家和裕、森廣雅人、横山航也、高見洋司、
福田啓之、土田大介、小杉千弘、外岡 亨、西村真樹、宮崎 勝

TMEを直腸癌手術の基本としており、この際確認される骨盤内構造物を側方靭帯を中心に述べた。術中操作としてS3辺りより肛門側では後壁剥離を先行、仙骨直腸靭帯を切離し骨盤底に達する。ここで直腸を頭側左右に牽引すると骨盤神経叢S3辺りからmesorectumに入る索状構造物があり、直腸固有筋膜を貫く部では、メくモの字様に認められる。これが神経(直腸枝)、中直腸動静脈の入り込むメ側方靭帯モと理解している。

19. 下部直腸剥離時に問題となる側方の脈管・神経
(いわゆる直腸枝、中直腸動脈)
弘前大学第2外科
森田隆幸、村田暁彦、小山 基、佐々木睦男

腹膜翻転部より肛門側で直腸を剥離授動する場合には、骨盤神経叢から分枝する直腸枝(中直腸動脈神経叢)の切離が必要である。直腸枝は骨盤神経叢の下縁から分枝する上群(いわゆる側方靭帯)と同神経叢の下前角から分枝する下群に大別できる。今後、中直腸動脈や直腸枝下群の解剖学的、臨床的意義が検討されるべきである。

特別講演    骨盤内臓の自律神経系とリンパ系の局所解剖示説
東京医科歯科大学名誉教授 佐藤達夫

手術後の排尿および性機能の温存は骨盤外科共通の課題である。しかし基盤となる局所解剖について共通認識が得られているとは限らないことを考慮して、精細な解剖所見をカラーフォトとビデオで供覧した。主な示説事項は、骨盤神経叢に入る交感神経の腰部からの下行形態、陰茎(陰核)海綿体神経の外尿道括約筋、陰茎(陰核)背部、肛門挙筋前端部への分布様式と性差、ならびに内外腸骨動脈間のリンパ節を経由してから大動脈周囲へ到達するリンパ管の存在、等である。

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